かぼちゃ電車 保存の話

 鉄道車両の保存、とくに当地のような屋外(露天)での保存は、まさに錆など劣化との闘いともいえます。

 また、車両をただ展示するのではなく、灯りを点けたり、走らせたりといった「現役当時により近く、生きた姿」で皆様にお見せし、楽しんでいただき、さらに皆様から保存車両や駅を利活用していただくことも、当会の重要なミッションです。

 

 このコンテンツでは、かぼちゃ電車の保存の実際について、「車両補修等の実際」、「ミッション:冬囲いを取り付けよ!」、「車両走行イベントの舞台裏」の3つに分けてご紹介します。


 先にも述べましたが、旧月潟駅の保存車両は立地の関係もあり、全車露天保存となっています。

冬場は冬囲いシートを取付けて、新潟特有の湿った風雪から車両を保護していますが、シートを取り付けていない春から秋にかけては、ほぼ常時何らかの補修作業を行っているといっても過言ではありません。

 主に行うのは、錆等の除去・腐食部の張替→下地処理→塗装→レタリング類記入といった鈑金作業になります。

 

 作業風景を写真でご紹介しましょう。

1)この事例では窓枠部の腐食がみられており、切除します
1)この事例では窓枠部の腐食がみられており、切除します
2)切除後、新しい部材を溶接します
2)切除後、新しい部材を溶接します
3)その他の腐食部も切削していきます
3)その他の腐食部も切削していきます

4)パテを盛った後、研ぎながら整えます
4)パテを盛った後、研ぎながら整えます
5)パテ作業中
5)パテ作業中
6)下地塗装をしていきます
6)下地塗装をしていきます

7)緑色部の下地塗装が完了
7)緑色部の下地塗装が完了
8-1)塗装は刷毛、吹付などの方法を状況により選択します(刷毛塗装の例)
8-1)塗装は刷毛、吹付などの方法を状況により選択します(刷毛塗装の例)
8-2)吹付塗装の例
8-2)吹付塗装の例

9)塗装吹付が終了
9)塗装吹付が終了
10-1)乾燥後、マスキングを除去。レタリングを入れて完成
10-1)乾燥後、マスキングを除去。レタリングを入れて完成
10-2)塗装面が艶々で、美しく仕上がりました。
10-2)塗装面が艶々で、美しく仕上がりました。

 

 また、保存当初より2020年頃まで点灯しなかったモハ11号の前照灯や車内照明については、一部LED化の上で2021年より完全点灯するようになったほか、キ116号の前照灯・作業灯も点灯するようになっています。

 

 2023年には、老朽化して欠損や動作不良のあったモハ11号の側窓ブラインドも交換・修理しています。

車内灯点灯改造施工中(有資格者が施工しています)
車内灯点灯改造施工中(有資格者が施工しています)
前照灯・尾灯(写真では消灯)・車幅灯・ワンマン灯がすべて点灯します
前照灯・尾灯(写真では消灯)・車幅灯・ワンマン灯がすべて点灯します
ブラインド修繕中
ブラインド修繕中


 

 雪国・新潟の冬。ここ月潟(新潟市南区)は新潟市街地から20kmほど離れた越後平野の真ん中に位置していますので、1mを超すような積雪はほとんどありませんが、湿った重たい雪が降り積もりますし、時に暴風雪が激しく吹き付けることもあります。

 当地の保存車両は、冬期間(毎年11月~翌年3月下旬)すべて冬囲いシートで車体を保護しています。この冬囲いシートの取り付けも、重労働かつ重要な役割のひとつです。

 

 そもそも冬囲いは何を目的に行うのかといいますと、簡単に言えば風雪から守るためです。もう少し詳しく述べると、例えば車両の屋根に雪が積もれば、数週間から数ヶ月の間、屋根は水に浸かったままの状態となり、当然ながら錆や痛みが進行しやすくなります。

 

 古く密閉性の低い窓枠に、横殴りの吹雪が当たれば、車内に吹き込んでいき、木製の窓枠や座席が濡れ続ける可能性があります。 また、塗装に割れがあって、その割れ目から水が入り、中で凍結して膨らんだりすれば痛みは進行します。 このように、“水分が流れて、晴れたら乾いてそれで終わる”雨と比べて、風雪は車体へのダメージが大きくなる可能性が多大にあります。
 北海道や東北等の豪雪地帯や寒冷地の鉄道は、現役車両の保守でも相当な苦労をされているのはご存知かと思います。 それは保存車両でも同じです。 とくに屋根の腐食が進み、雨漏りが始まると、車両は一気に劣化します。

 このような理由から、作業が大変でも冬場にシートを掛けておき、少しでもダメージを減らそうという試みです。

 

 一方でシートさえ掛ければ万事解決なのかと言えば、デメリットもあります。

 シートの中が多湿になり蒸れてしまう不安や、シートのかけ方が悪いとシートの中に水が溜まってしまい、逆に車両を水浸しにしてしまう可能性もあります。

 さらに、シートがけ作業自体が車両へのダメージになる懸念もあります。 例えば、当地のモワ51のように、屋根が木の骨組みの上にあるような構造の車両では、シートを掛けるために屋根上で重量や衝撃を掛けながら作業すれば、屋根へは風雪とは異なる負荷がかかります。 現役の車両でも、前後左右上下に負荷のかかるパンタグラフの基部は、防水シールが切れて雨漏れの原因になりやすいそうです。
 加えて、大きな重いシートを被せる時や風によるバタつきで、塗装面が傷つく恐れもあります。 デメリットを最小にするために手順や手間をかけて作業すると、作業時間や負担が増えてしまう、というジレンマも悩みの種です。

 現状での作業手順としては
1. シート破れを防止するため、車両の突起物となる部品を外す。

2. 外せない部品や突起は緩衝材で養生する。

3. ラッセル車など箱型ではない車両は、木材や竹棒などで枠などを設置し、車体全体を箱型に近づける。

4. 上掛けの銀シートの擦れ防止の為、分割した薄いブルーシートを下地として掛ける。(人間でいえば、下着のようなイメージ)

5. 上掛けの銀シートを掛ける。(継ぎ目が多いと継ぎ目から風雪が入ったりバタついたりするので大きなシートを使用しています)

6. シートのバタつき防止や風対策のため、太いロープを何本を巻きつける。

 という手順になっています。(下写真参照)

 シート上やシート内部で水がたまらないように綺麗にシートをかけることも重要な要素です。


 車両がきれいに修理されるわけでもなければ、お客さんに喜んでもらえるわけでもなく、加えて天気も悪い日が増える日本海側の気候の中で作業するのは、容易ではありません。 重労働であることに加えて、きちんと丁寧に行わないとデメリットも出てくる作業ですが、当会の経験上では冬囲いをした方が車両の劣化は小さいといえます。
 冬場に折角来訪してくださったお客様を残念に思わせてしまうこともありますし、雪の中の車両を撮りたい気持ちも大変共感できるのですが、古い車両を少しでも守るための作業ですので、是非応援していただければと思います。

 

冬囲い取付作業の様子を写真でご紹介します。

1)シート破れを防止するため、外せる部品は外します。写真は外した屋根上機器
1)シート破れを防止するため、外せる部品は外します。写真は外した屋根上機器
2-1)車体の突出部を緩衝材で養生します
2-1)車体の突出部を緩衝材で養生します
2-2)車体側面の手摺や床下機器の突出部も養生します
2-2)車体側面の手摺や床下機器の突出部も養生します

2-3)屋根上は通風器、パンタグラフ枠、手掛を養生します
2-3)屋根上は通風器、パンタグラフ枠、手掛を養生します
3-1)ラッセル車は凹凸が多いため、なるべく箱型にしてシートで包めるように工夫。エアタンク部には枠を組みます
3-1)ラッセル車は凹凸が多いため、なるべく箱型にしてシートで包めるように工夫。エアタンク部には枠を組みます
3-2)楔形の前頭部にも柱を入れます
3-2)楔形の前頭部にも柱を入れます

4)風により上掛けのシートが車体と擦れるのを防ぐため、ブルーシートを掛けます(この後、前面部にも掛ける)
4)風により上掛けのシートが車体と擦れるのを防ぐため、ブルーシートを掛けます(この後、前面部にも掛ける)
5-1)上掛けとなる銀シート。非常に大きく、重くて丈夫です。
5-1)上掛けとなる銀シート。非常に大きく、重くて丈夫です。
5-2)銀シートを掛けていきます
5-2)銀シートを掛けていきます

5-3)位置を調整し、縛って固定していきます
5-3)位置を調整し、縛って固定していきます
6-1)ロープを縦横に巻いて、風で煽られないようにします
6-1)ロープを縦横に巻いて、風で煽られないようにします
6-2)ロープ固定が終わると、シートの端や重なり部をテープで固定します
6-2)ロープ固定が終わると、シートの端や重なり部をテープで固定します

7-1)完成
7-1)完成
7-2)ラッセル車も、ほぼ箱型にシートで包まれます
7-2)ラッセル車も、ほぼ箱型にシートで包まれます

 

 今後も、車両の劣化とのいたちごっこの日々になります。

 より美しい状態でご覧いただき、現役当時の雰囲気を楽しめるように、補修作業等に引き続き取り組んでまいります。


 

 2022年10月、「走れ!かぼちゃ電車」の第一弾として、23年ぶりにお客様を乗せて走ったモハ11号電車。

 廃線以来ほとんどの間、駅ホームに据え付けた姿で静態保存していた車両を「動かす」となると、それはもう大仕事です。

 この電車は本来、直流1500Vを架線から受けて走行しますが、変電所もありませんし、電気関係の絶縁もかなり怪しいですから、この方法は非現実的です。

 そこで、車両メンテナンス用に当会で保有していた、車両移動機「アント」を用いて推進・牽引する形となりました。それでも、かなり大仕事ですが。。。

 

 当会には、上越市のくびき野レールパークの運営と掛け持ちしている会員が数名居り、10年程度動態保存の運行に携わってきていました。また、エンジニアをはじめとした各種専門職や有資格者が会員として居るもの強みです。それでも、アントを用いた電車の走行は未知の領域のため、まずは先行事例の見学を行いました。

 2021年、動態保存の運行従事経験のある会員が、岐阜県の旧谷汲駅(名鉄谷汲線)を訪問しました。

 ここでは、アントを用いて電車を走行させる体験乗車イベントを開催しており、運営している特定非営利活動法人にわてつ様より、様々な情報やご助言を頂き、非常に参考になりました。

改めまして、厚く御礼申し上げます。

 

 とくに、電車内に運転士が乗務し、外部の空気圧縮機より元空気ダメに貯めた圧縮空気で電車側のブレーキを作用させ、ドア開閉も実際に作動する、という点は安全面から月潟でも採用しよう、ということになりました。

 月潟では早速、電車の外板だけでなく、空気配管やブレーキシリンダなどの整備を行い、マニュアルの作成やルールの制定をするなど、様々な準備をすすめていきます。

 2022年夏、ひとまず試運転できる状況にまでもっていきました。

 

こちらの写真は、2022年8月、最初に試運転を行ったときの、ひとコマ。

外部から圧縮空気を供給する空気圧縮機が力不足で、なかなか元空気ダメの圧力が上がらないなど、まだ問題はあるものの、ひとまず安全に走って止まれることを確認。

 

 2022年9月、イベント走行に向けた訓練が数日間の日程で実施となりました。

 数十ページにおよぶマニュアルを読み込み、各持ち場でひとつひとつの動作や手順を確認しながら訓練していきます。「安全鉄則、先ず止める」。

 

 当会の会員だけでは到底人員が足りないため、他所の保存団体からの応援メンバーも加わります。

試運転中のモハ11
試運転中のモハ11
運転士がハンドルを握り、現役さながらの風景の運転室。軽便鉄道のディーゼル機関車とは感覚が全然違うという
運転士がハンドルを握り、現役さながらの風景の運転室。軽便鉄道のディーゼル機関車とは感覚が全然違うという
車掌などのスタッフもマニュアルを基に訓練を行う
車掌などのスタッフもマニュアルを基に訓練を行う


 

 一見、順調に走行しているように見えますが、どこかからか生じているエア漏れがあります。

 それによって元空気ダメの圧力が低下し、走行中に自動的にブレーキがかかって停車してしまうなどのトラブルがありました。

外部より元空気ダメに圧縮空気を込めている
外部より元空気ダメに圧縮空気を込めている
エア漏れ部位を特定、修繕作業を行う(2023年撮影)
エア漏れ部位を特定、修繕作業を行う(2023年撮影)
時に、作業は深夜に及ぶ…(2023年撮影)
時に、作業は深夜に及ぶ…(2023年撮影)

 

 様々な問題に直面しながらも、2022年10月、無事に23年ぶりにお客様を乗せて電車がゆっくりと構内を走行しました。

2022年10月、「走れかぼちゃ電車」一番列車の発車シーン
2022年10月、「走れかぼちゃ電車」一番列車の発車シーン
現役当時のような光景が再現された
現役当時のような光景が再現された

 

 そして2023年も、9月に「走れ!かぼちゃ電車」の第二弾を開催。

 乗車予約が数分で満席になり、当日もNHKニュースで全国放送され、県内民放各局がローカル特集を組んでくださるなど、話題となりました。


 走れ!かぼちゃ電車では、現役当時の雰囲気を再現することを大切にしています。

・出札窓口では専用の硬券切符を用意、日付を刻印して発売して、乗車時に昔ながらのパンチで入鋏します。

・自動放送は、専用の8トラテープを内製で新規製作しています。

・発車ベルや一部の構内放送は、現役当時の機材や音声データを使って懐かしい音を流しています。

・車内補充券発売機が全盛となった今では珍しくなった、穴あけ方式の車内補充券の発行デモンストレーションも行っています。

それぞれ、現業での経験や、他所の動態保存やイベント開催の経験、個人がもつ技術や知識を発揮するなど、メンバー各々の「経験」「得意」を持ち寄っています。

出札口では硬券の切符を発売
出札口では硬券の切符を発売
切符をパンチで入鋏します
切符をパンチで入鋏します
車内補充券のデモンストレーションも行います
車内補充券のデモンストレーションも行います


 

 

⇒かぼちゃ電車保存会の紹介についてはこちら

本会は、新潟市南区月潟にある旧新潟交通電車線(電鉄/かぼちゃ電車)の車両および旧月潟駅の保存活動を行っている団体です。
This circle is an organization doing to save the vehicle and save the former Tsukigata station. (Niigata-Kotsu Co., Ltd.) Minami-ku, Niigata city, Japan.
(This website is Japanese only.)

※遠足や総合学習、ならびに各種研修会・勉強会、各種撮影などにおいて、月潟駅や保存車両の利活用をご希望の場合はお気軽に問い合わせください。